映画化で話題の小説『変な家』を読んだので感想と考察

感想
変な家 文庫版 Kindle版

久々のこっちのブログ更新になりました。
2024/3/15に映画公開された『変な家』の原作小説を読みましたので感想を書いていきたいと思います。

映画化で話題と書きましたが、実は私はこの作品、映画化を知る前から気になってました。

コミカライズのバナー広告をよく見かけていたからです。

これかなり興味を惹かれる広告ですよね。

私もこれまで何回か引っ越しを経験していて、そのたびにSUUMOとかホームズとかで新居候補の間取り図をたくさん見ていました。
これがけっこう楽しくて、一人暮らし向けの物件なんてどれも似たり寄ったりかと思いきやそれぞれ個性があって、長時間見ていても全然飽きませんでした。
似たような感覚を味わったことのある人も多いんじゃないでしょうか。

そこでこのバナー広告の吹き出しにある「何か気づきませんか?」という問いかけです。

「ん?どこがおかしいんだ?それにどんな意味があるんだ?」って気になっちゃうじゃないですか。

そして「変な家」映画化で世間的にも話題性が一気に上がり、youtubeでも関連する動画がたくさんおすすめ表示されるようになり、この広告の漫画が実は元々youtubeにアップされた動画だったということを知りました。
その動画も実は、さらに前に執筆された「オモコロ」というサイトの1つの記事でした。

①オモコロの記事
https://omocoro.jp/kiji/253078/

②動画

 

③小説

④コミカライズ

⑤映画

という順序ですね。

それでまずは、youtubeの動画を観ました。なにしろ無料ですからね。
約20分という短さとは思えない濃厚な動画なのでまだ観てない人はぜひ観てみてください。

私もこれで間取り図のミステリーと雨穴さん・栗原さんのキャラクターに一気に引き込まれてしまい、他の動画もいくつか観ていたら(中にはサムネで「うっ…」となってしまって観られなかったものもありますが)、「変な家2」「変な絵」という動画がありました。

これも「変な家」と同様、それぞれ新たな奇妙な間取り図、不思議な絵について雨穴さんと栗原さんが推理していくミステリーで、一応は謎に対する回答に行きつくのですが「変な家」と違っていたのが「新たな謎を提示されて終わる」ということでした。実にもやもやします。

というのも、これ実は雨穴さんが新しく書いた書籍

の宣伝動画だったんです。

動画の続きが気になった私は、まんまと書籍を買ってしまいました。実に上手い販売戦略です。

どちらも数時間で一気に読み終わってしまい、それでもまだ雨穴ワールドを味わい足りなかった私はようやくここで小説版「変な家」を購入して読むことにしました。

「まあでもこれは動画で終わってた話だしな」とそこまで期待してなかったんですが、実際に読んでみたら動画の部分はほんのさわりの部分だけで、小説化にあたってそこから発展した全く別のストーリーが描かれていました。

新しい物件の間取りが出てくるたびに、「この間取りにはどんな秘密があるんだろう?」と興味をかきたてられ、栗原さんの「分かりますか?」という煽りでムキになって変なところを探すんだけど分からなくて、栗原さんの推理を聞いて「なるほど~」と思いつつ、「あれ、でもなんかおかしくね?」とまた気になる部分が出てきて…というループでページをめくる手が全然止まってくれませんでした。
まあ電子版で読んでたのでめくってはないんですけど。
kindleで読んでると、間取り図が書かれたページとかの気になったページをブックマークしてすぐに見返すことが出来たり、「あれ?この名前どっかで出てこなかったっけ?」って時に検索出来て便利でしたね。

そして最後に、全ての謎が解けたのかと思いきや栗原さんの一言で全てがまたひっくり返ってしまうのも憎たらしかったですね。
雨穴さんの小説って地の文がなくドラマの台本のように人物同士の会話で進んでいくという特徴があって、客観的事実を言ってくれるナレーターが存在せず全て筆者の視点で進み、最終的に栗原さんがそれっぽい推理を言って筆者(登場人物としての筆者)目線での回答は出て一応納得は出来るんですが、本当にそれで正解なのかっていうのは分からないんですよね。

実際、よくよく思い返してみると「あれ?あんまり触れられてなかったけどここってちょっとおかしくない?」って部分があるんですよね。

文庫版で加筆された部分にもヒントがあるんですけど、特に気になった部分と私なりの考察を書いておくと

ネタバレのため反転↓

●東京の山中で見つかった左手のない死体がバラバラにされていたのはなぜか?
慶太の手紙の内容が真実で実際に殺人を行っていなかったのなら、埼玉の死体と同様にバラバラにする必要はないはず。
ただでさえ死体を用意するなんて簡単ではないのに、たまたま元々バラバラだった死体がひとまとめになっているのを見つけましたというのも考えづらい。
身元の特定や発見を遅らせる目的でないのは作中で指摘されている。
死体を運ぶ過程でバラバラにする必要があったとしたら、当初の栗原さんの推理通りあの家で殺人が行われていたのではないか。
つまり慶太の手紙は嘘。
そしてリビングから個室を監視する小窓。
綾乃は慶太が外部へ秘密を洩らさないか監視しながら左手供養を桃弥に実行させていた。
それは偽装に失敗したから仕方なくなのか?
だとしたら左手供養を実行する前でなく、少なくとも既に2回以上実行してしまった後でいきなり行動を起こしたのは不自然(浩人が生まれて心境の変化とかあったのかもしれないけどその説は置いとく)
つまり綾乃は自分の意志で左手供養を桃弥に実行させた。
だとしたら、なぜ清次は殺されたのか。
綾乃にとって、片淵本家は間接的に父親を殺した仇とも考えられるから。
綾乃は片淵本家の血筋だが、同時に片淵分家の血筋でもある。
綾乃の母親・喜江は、左手供養によって犠牲になった片淵分家の子供の兄弟・弥生の孫で、左手供養を仕組んだ第二夫人・志津子の子孫へ復讐するという呪いを受け継いでいた(のかもしれないと栗原さんが推理してる)。
ならば綾乃が左手供養を実行したのは、片淵本家に洗脳されたからではなく片瀬分家筋である母親の洗脳を受けていたからではないのか。
綾乃が次期当主として重治へ引き渡されたのは12歳の時で、喜江の言葉でも「もうだいぶ分別のつく年頃だったから、人格までは影響されないだろう」と言っているが、裏を返せばもっと幼い頃なら人格に影響を与えられるともとれる。
喜江は綾乃が生まれたときから、祖母弥生の怨みを晴らすように洗脳していたのではないか。
そして片淵本家・片淵分家(志津子の子孫)両方への復讐を終えた綾乃は、全ての罪を慶太に押し付けて平穏な生活を手に入れた。

どうでしょうか。けっこう筋が通ってるように思えます。
でもやっぱりこの考察にもいくつか穴があって、
①綾乃と慶太の関係
最終的に慶太は自ら警察へ出頭しているので綾乃の計画に自分の意志で協力していたと考えられる。
だとしたら、綾乃は慶太を使い捨てのように扱い、慶太も自分の人生を棒に振ってまでそんな綾乃を守ろうとした。
2人の関係はどういうものだったのか?
手紙の内容が嘘なら、2人の馴れ初めからして嘘という可能性もある。
慶太の人物像のヒントはあの手紙しかないのでこれ以上の推理も難しい。

②喜江は洗脳されていたのか
綾乃は直接登場していないのでなんとも言えないですが、私の推理だと綾乃を洗脳したことになっている母親・喜江はちゃんと登場してがっつり喋ってました。
作中で筆者も指摘していましたが、客観的に左手供養の話が出来て泣きながら懺悔もしていた喜江が本気で怪しい儀式や呪いを信じて娘を洗脳していたというのも違和感が残ります。
ずっと田舎の屋敷に引きこもっていた宗一郎や重治が因習を信じ込んでしまうのはなんとなく納得出来ましたが、そういうわけでもない喜江がそうなるのはちょっと無理がある気もする。
もしかしたらこれが「手袋」にあたる部分なのかもしれない。

③桃弥が生まれなければどうなっていたのか
左手供養が蘇ってしまったのはたまたま桃弥が左手を持たずに生まれてしまったからです。
そんな、極めて確立の低い偶然が起きることを予期して喜江が綾乃を幼い頃から洗脳していたというのもやっぱり難しい気がします。
って書いてて思ったんですが、そもそも最初に左手のない子供が生まれたのは、それが近親相姦によって生まれた子だからという理由がありました。
近親婚では「常染色体性劣性遺伝病の罹患者頻度が他人結婚に比べて上昇する」というのは厚労省のホームページにも書いてあって、オカルトではなく科学的事実です。
もちろん現実なら近親婚でなくても先天的に障害を持った赤ん坊が生まれることはありますが、これは小説なので筆者のなんらかの狙いがあると捉えるのが自然です。
そしてこの作品があくまでオカルトの存在を否定しているとするなら、桃弥が左手を持たないことにも意味があるはずです。
作中では桃弥の母・美咲は長男に嫁いできたというだけで特に出自には触れられていなかったと思いますが、もしかしたら片淵本家にかなり近い血筋の人だったんじゃないでしょうか。
喜江の話の中でも、美咲が「あの人たちはそんなんじゃないの」と、片淵が左手供養にかける執念をよく知っているようでした。
嫁いできたときに教え込まれたという可能性もあるでしょうが、同様に嫁いできた喜江も左手供養のことを教えられていましたがそこまでの執念があるとは思っていませんでした。
だとしたら、美咲も幼い頃から片淵に左手供養のことを教えられていた=片淵本家とかなり近い血筋、というかぶっちゃけ重治の実の娘で兄妹であることを世間には隠して結婚したんじゃないかという気がしてきます。
そうすると、ようちゃんが亡くなった理由にもまた別の闇があるような気もしてきます。

というふうに、際限なく疑問が湧いてきてしまいます。
「手袋」が明らかにならない限りははっきりとした答えは出せないのかもしれないですね。

 

実は筆者(登場人物としての筆者ではなく筆者としての筆者)も隠している事実があって、事件の真相はまた別にあるんじゃないか…というもやもやが残ります。

これを「全部ちゃんとはっきり答えを出してほしい」と不満に思うか「考察のしがいがある!」と満足するかは人それぞれだと思いますが、個人的には両方思いましたね。でもそれくらいがちょうどいいような気もします。完璧にすっきり終わる作品よりもどこかひっかかる部分がある方が語りがいがあるし記憶にも残るんですよね。

映画のレビューもいくつか見たんですけど、賛否両論あるみたいでしたがどちらも共通して「原作と全然違う!」という意見が大多数でしたね。その違いというのも2種類あって

①ストーリーが全然違う
②ミステリーじゃなくてホラーだった

ということらしいです。

たぶん①を言ってる人は元の動画かオモコロの記事だけ観て小説版は読んでなかったんじゃないですかね。
小説版では動画の内容は第一章の部分、ページ数で言うと216分の39、全体の2割弱だったので映画が小説を原作にしているならまあそういう感想になるのは当然だと思います。

②については本当にどの感想を見てもみんな言っていて、マジで怖かったらしいです。
私自身映画を観ていないのであまりはっきりしたことは言えませんが、正直映画化するならそういう方向に舵を切って派手に見せるのは悪くない選択なんじゃないかと思ってしまいます。

ただ、そばを食べに行ったらラーメンが出てきたようなもので、
「美味しいラーメンが食べられて満足」という人と、
「どんなに美味しかろうと俺が食べたかったのはそばなんだ」という人で分かれて賛否両論となってしまったようです。

雨穴さんはXのアカウントを持っていて書籍の宣伝なんかはポストしていますが映画については公開初日にすら何も触れていないことで何かあったのかとつい勘繰ってしまいたくなります。

一応映画公式サイトにはコメントが寄せられてるんですけどね

映画公式サイト

ちなみに私は、ホラーが得意ではないのでたぶん観に行きません。

3作読んだ小説はどれも面白くて満足でしたが、特に「変な絵」は比較的はっきりした答えを出してくれて、最後に最初の絵に帰結していく構成も見事なのでかなりおススメになります。

そして私も、「変な家」のパロディ風に成人向けPCゲーム「対魔忍ユキカゼ2」のストーリーを紹介する謎の動画を作ってみたのでよかったら観てあげてください。

以上!

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